〜十二話〜  龍神秀(デグラシア)、それは三殿の内の一つであり、全てから敵対関係を過去からずっと引き継いできている。これが生まれる理由となったのは、太古昔、三劉神(ティクリア)が仲良く暮らしていたものの、その内の龍神秀が暴言及び暴行を加えた所為で、三殿バラバラになって存在してきた。十翁(テンベイ)、五御王(フィンディア)、三神者(ティリクラスト)が生まれ、初期の彼らはとても強かった。だから竜姫翁(メイルピア)や無轟殿(アクシェドラ)に勝っていた。そして今まで引き継がれていた物が、一つだけ顕在し、それは超破誠(メタリアル・ブレイク)が持っている黄金に輝く刃を持つ、金剛硬重剣(ダイヤ・ヘヴィー)だ。  金剛硬重剣は龍神秀が命の引き換えに製造した唯一無二の魔力を封じ込めている剣なのだ。これが過去から引き継がれていることは、今まで龍神秀が勝ってきた証でもある。  だがしかし、無轟殿はそれを見ていて竜姫翁やこちらも強くならなければならないという事で、今回のように仕掛けた。無轟殿からはこのような事が起きるのは知っている。何らかの方法を使って知っているのだが、それは門外不出で誰も知らない。  龍神秀には便利な設備が備わっている。家庭生活と同様に出来る一式の他に、どこからか搬入されてきた食料に飲料水、衣服類等が置かれており、ここが家のように作られていた。それに超破誠が座っていた部屋(第八話参照)は、ほぼ龍神秀の上部と言っていいほど上にあり、十翁とかがいる連絡支部はそれの下部の方。中部の方に何があるのかすら知らないが、五御王や三神者が滞在できる場所はあるだろう。  そして、その下部にある連絡支部はと言うと・・・。  「・・・・・・そんな事があったのか」  十翁の一番目、雷竜翁(ライドルギア)こと最宮 陣(さいみや じん)は、八番目、裂踊舞(チューブリオ)こと高田 舞衣(たかだ まい)から今までに合った事を言った。  「おかげでヴァスタニアが見られたわ」  その言葉で一番から三番目までは吃驚する。  「「「はぁ!?端山が使えるわけがない(わ)!!」」」  ヴァスタニア・・・。それは日々の感情や努力数、人に対する憎悪から新たなる力を手に入れて、七星天神(セブンス・アーマドラゴン)になれる力。現時点において使えるのは、竜崎 姫(りゅうざき ひめ)と端山 彩人(はやま さいと)。  「私達でもヴァスタニアに近いやつ、ヴィシニアしか使えないのに・・・」  二番目、嵐帝飄(アリアラント)こと吹寄 真奈(ふきよせ まな)は言う。  ヴィシニアはヴァスタニアにとても近い魔力。高田が竜崎と端山戦で使った、黒くてどす黒いもやもや包まれたやつ。それがヴィシニアと言うのだ。  そこで六番目、岩凰塊(ラデュリエル)こと池上 文貴(いけがみ ふみたか)は言った。  「で、今後どうするつもりだ?」  十翁から四人が亡くなり、それに五御王や三神者に零様まで裏切っているのだ。もうここにいても用は無いはず・・・なんだが。  「でも、ここからは離れたくないな・・・」  七番目、超跳弾(スーパーボール)こと九重 美里(このえ みさと)は呟く。  「そうだよな」  池上も同様。それに続き、全員言った。  そうなのだ。ここから生まれて今に至るのだ。ここを離れることとなると、そう感慨深くなってしまう。  そこで三番目、炎轟乱(フレベリアル)こと火乾 蓮(ひぼし れん)は言った。  「・・・ちょっと聞きたいけど、ここを離れて何処に行くつもり?」  彼の一言で皆は黙る。そう、ここを退部しても行く当てが無ければ浪人になってしまう。皆、その事で悩んでいるようだが、最宮はその沈黙を一蹴した。  「端山の家はどう?」  「いや、多人数で押しかけても止めれないんじゃ・・・」  池上が制する。いくら二人暮しをしているとはいえ、流石に一戸建てに八人も住めるわけが無い。  ここで意外な事を発したのが九重だった。  「じゃあさ、竜姫翁に行くのは?」  ちょっと間が空いて、最宮が答えた。  「・・・し、正気か?」  「今の間は何なのよ!!私が一生懸命考えて出した意見なのに!」  「いや、それは分かる。でもな、どうやって行けるのかすら分からないんだぞ!」  最宮も押してはいるが、九重も負けられないと思って口論する。  「だったら、竜崎さんに聞けばいいじゃないの!」  「・・・最もだ」  他の四人は頷く。「成る程」とか「その手か」とか呟いて頷く。  そして最宮は立ち上がって皆に報告した。  「我らが最善の行動を取るべきことは端山の家に行くことだ。龍神秀から脱退する事を、我は誓うぞ!」  龍神秀特有の呪印、アジェスタは消える。  アジェスタとは、ここの人員だけ背中に近い首の辺りに龍神秀特有の印のこと。それが解けたならば、ここから脱退を意味する。  最宮に引き続き、他五人が脱退する。  「さて、俺が先陣として端山の家に向かうぞ!」  「「「「「おおーっっっ!!」」」」」  他五人の声が重なる。そして、そこから端山の家へ向かうことにした・・・が。  「ところで、端山の家はどこ?」  最宮の一言で他五人は呆然としざるを得なくなった。  その全貌を聞いてて、尚待っていた人物がそこに一人現れた。  「誰が行かせるって言った?」  その言葉には威圧を感じる。  そこに五御王の地翁者(アーシンダスト)こと土坂 大地(つちさか だいち)が現れた。  「あ、地翁者!?何でここに!?準備に取り掛かったんじゃ・・・」  最宮が聞く。  「どうしても零様一人で行きたがっている様だから、待っとけって言われたんだよ・・・はぁ。どうして、俺と戦う相手がいつも弱いんかな・・・」  どうやら彼のほうも落胆しているようだ。  現時点では五御王の一人に六人がかりで戦っても負けるのが当然。それに連絡支部から外に出られる通路を塞がれている為、どうしようも出来ない。  どうしよう、と最宮が考えていると名乗り出てくれたのが二人いた。  「ここは私の出番ね」  「私が弱いと思わないでね」  九重と高田が言った。二人は初っ端からヴィシニアを使っている。  「うん?それだけでは勝てないな。もっとヴァスタニア使いになってくれたら良かったものの・・・はぁ」  やはり土坂は落胆している。そんな時に不意打ちを二人は仕掛けた。  「床面跳弾(フロアバウンド)!!」  「蛇流轟邪(スネークアズヴァ)!!」  この床を全体的に跳ねらし、足場を失うことで攻撃を出せなくする。それに蛇のようにウネウネと曲がりくねった鎖が彼を捉える―――  「地壁(アズウォール)」  たった地で出来た壁に瞬時にして鎖は壊れた。  「不意打ちを狙うなんて、おしおきが必要だな・・・。はぁ、お仕置きするの、面倒だな」  落胆やら面倒やら、苦手とするようだ、彼は。  「軽いお仕置きぐらいでいっか。重いお仕置きだと何重も魔法をかけなければならないし。地落死(アズフェールデッド)」  高田と九重の足元に穴が開く。彼女二人はどうすること出来なくなってしまい、落ちてゆく。その後、二人がどうなったのかなんて知らない。  二人にあっさりと勝ってしまう地翁者。  「次はお前らだけど、どうする?面倒だからちゃっちゃとやっちゃって」  本当に溜息をついている。見ていた残りの四人は呆然としているしか出来なかった。  次は誰が出るのだろうと、思いながら見ていると―――  「その辺りで止めたほうがいいんじゃないんでしょうか?」  敬語口調。柔和な笑み。それは五御王の風翁者(ウィンダスト)こと神風 仁(かみかぜ じん)が来た。  「・・・今度はお前が相手とは言わないだろうな・・・」  「そんな事、ある訳ないじゃないですか。私達は五御王でしょ?なら、味方割れしませんよ」  「・・・お前がやってくれるのなら嬉しい。俺は今、猛烈に身体がダルくて面倒なんだ」  言い訳を適当に言っている。  「嘘を吐かなくても貴方の性格ぐらい明確ですよ。後は私がしておきますから」  神風は彼らのほうを見てウィンクをする。  「・・・俺はいち早く休暇を取ってくる。・・・はぁ」  最後まで土坂は落胆していた。仕事が減って喜ぶことすらせず。  土坂が帰って行った後、最宮は神風に聞いた。  「おい、あの二人はどうなったんだ?」  「・・・もう生き返って来ませんよ」  「・・・そんな簡単に殺し呪文使えるなんて最悪だな、五御王は」  「殺し呪文を使う五御王は決まってますよ。彼だけです。他はちゃんといたぶって、最後に止めをさしますから」  「・・・・・・」  「用はそれだけですか?」  「・・・何が言いたい」  「貴方達は端山君の家に行く所で止まってるんですよね?だったら何故、行こうとしないんですか?」  そのはずだ。そのはずなのに、四人は一歩も動こうとはしない。  「まあ、分かってますから貴方達が聞きたいことを」  神風は最宮の言葉を言わせる前に言う。  「端山君の家の位置を知りたいんでしょ?竜姫翁へ向かうために」  本当にどうやって知り尽くしているのだろうか。  「最宮君の脳内に入れておきますよ、彼の家までの道順。秘密連絡(スペシャルリンク)」  すると神風の記憶の中から端山の家に行くまでの道順だけを最宮の記憶内に入れた・・・そんなような雰囲気が漂う。  「ありがとうな」  「いいえ、どういたしまして」  そう言って去ろうと思っていたのだけど、最宮は最後に神風に聞いた。  「本当にお前はどっちの味方なんだ?」  「その秘密は後ほど分かりますよ。一つだけヒントを与えてあげましょう」  間が空いて。  「私は中立者ですよ」  「・・・いいヒント、どうもありがとう」  そう言って、残り四人となった十翁のメンバーは、最宮を先頭として端山の家へと向かった。  「本当に疑ってるのですか?」  私はそう独り言をしました。誰もいないところでです。  「さて、私は行くべき場所へ向かわないといけませんね」  独り言でも敬語を使うことに慣れてしまっているようです。  私は瞬間移動をして、無轟殿へ向かいました。  そこは白い空間と言えるべき場所でしょうか。私の後ろにはいつもと変わらない門扉があって、いつも閉まっている。どこかの神殿を連想し兼ねませんが、それと同じような感じがいつもします。私は門扉を見る為に後ろを向いて、知らぬ間に手を添えてしまいます。  私がここに来た理由はあります。その理由は後で分かるでしょう。  「ふん、また来たのか神風。お前も本当に暇人だな」  「私が来た理由を知ってそれを言ってるんですか?」  私は後ろから聞こえてきた声に返答をします。  「そうでしょう?七瀬 秀(ななせ しゅう)君」  私はそう言って、ゆっくりと振り向く。そこには、優雅に王様でも座っているかのような椅子に座ってます。  「ふん、お前は龍神秀の五御王のはずなのに仕事をサボっていいのか?」  七瀬君はいつも私の心配をしてくれている。そんな彼がまた、いいのです。  「大丈夫ですよ。今は臨時休暇ですから」  私は彼の近くに寄ります。  「・・・で、お前はよく未来のことを知りに来るけどよぉ、あいつもあいつで大変なんだぜ?」  「それは承知の上です。あくまでも、私は中立者としてスパイを名乗ってますから」  そう、私は無轟殿から龍神秀に送られたスパイ。そしてそこからまたスパイと二重スパイなのです。  私は不意に彼の顔に自分の顔を近づけてしまう・・・。それほど、彼は美しいです。  「止めろ、神風。近づくな」  「ふふっ。そう言いつつもされるがままですけどね。私の性別を知っておきながら、それはないでしょう」  私にも秘密があります。実は二つも隠し事をしてます。この際、言って置きますが、私は女で、名前は神風 運(うん)です。偽名まで使って龍神秀に入っていましたので。  私は彼の頬にそっとキスをして彼が話しかけてきます。  「ところで、超破誠の方は?」  「ここまで来る道をお探しでしょう。来るまで時間が相当かかりますよ。でも、あの予言通りなのであれば、一週間後となってますが」  「今まであれは間違ったことは無いから、こちらだってちゃんとした対策がとれて嬉しいぜ。そうだろ?高野鳥(こうのとり)」  私は知っています。ずっと、近くにいたことを。  「また、か。神風。ちょくちょく来る事が習慣になってるだろ?」  高野鳥 一(こうのとり はじめ)。彼の魔法名は《未来確定劉(フューチャーダロウド)》。魔法名通り、確定した未来が読めて、それについて対策がとれるのです。  「はい、ここに来ることが日課のようですね」  私はいつもの柔和な笑みを見せる。  「男装はどうだ?」  「また、その質問ですか。もう慣れてしまいましたよ」  私は不意にも新しく買った服を友達に見せるようにして、彼らに見せるように回ります。  「本当に似合ってやがる」  七瀬君は褒めてくれる。だけど、私は照れたりはしません。  「で、お前が聞きたい未来のことは何だ?」  一君は言ってきます。  「そうですね、一度も聞いてない「戦後に誰が生き残る」かを伺います」  「何の戦の後だ?」  「そうですね・・・。最終戦ですね。無轟殿最強と呼ばれる、端山彩人君の従兄弟、端山一(はじめ)君との戦いです」  すると、一君(高野鳥の場合はこう呼びます。端山一君はちゃんとフルネームで言います)は不安そうにこう言います。  「その後、か。非常に言いにくい」  「大丈夫ですよ。私はちゃんとその未来を信じますから」  そして一君はこう言った。  「最後に、魔法使いの頂点に立つ者は、端山―――」  そして私は新たな真実を知ってしまったのです。