〜第三話「日常は超常へ」〜  俺はシャワーの音で目を覚ます。一体、誰が入っているんだ・・・。  などと、思って体を起こしてみたら、布団が掛けられていた。それに布団には彼女がいなくて、俺の服が和室中に散乱していた。  「・・・・・・」  俺は無言で通して、立ち上がる。そしてリビングへ行って牛乳でも飲もうとしたら、冷蔵庫の前は何かをこぼしたみたいに冷たくなっていた。  「冷たっ!」  俺の右足は餌食となってしまった。靴下を履いていたため、靴下が濡れた。  「ったく、一体何がどうなってるんだ・・・」  そう呟きつつも俺は雑巾で拭く。冷蔵庫を開けてみれば、空けていた牛乳がなくなっている。その牛乳パックはテーブルの上に置かれていた。  俺は新しく牛乳を開け、一気飲みにかかった。  一気飲みをしていると、左に何やら気配を感じ、左に向けば、俺が着れなくなったジャージを着ている彼女がいた。  「ぶほっ」  一気飲みしていたため、俺は口に含んでいた牛乳を噴出す。  「あ、ちょっと!私に掛けないでよね!風呂上りなんだから」  腰まで届いていた赤く長い髪は、後ろのほうで纏めている。風呂に入ったと言わんばかりの熱気が俺にも伝わってくる。  「そ、それ俺の服・・・」  「分かってるわよ。私、あの制服以外の服持ってないし、お下がりがあるんだったら頂戴」  「頂戴って言わずに買いにいけよ!」  俺は牛乳をテーブルの上に置いて、言った。  「それに、し、しししし下着もないんだからねっ!」  彼女は赤面しつつも言う。ん、今なんて?  「同じ事を言わせないで!」  俺に何やらタオルを投げる。それを普通にキャッチする。  「すると、お前は、その、の、ノーブラノーパンって事か?」  何やら嫌な汗が流れてきそうだ。  「・・・うん」  それを聞いた俺は、すぐさま私服に着替え、携帯、財布、鞄を持って彼女の目の前に現れる。  「これからお前のを買いにいくから、この家の中で待ってろ!いいな?」  俺は彼女の返答を待たずに玄関を飛び出す・・・が。  はたまた彼女の前に現れて、俺は聞きそびれた事を聞く。  「スリーサイズと服のサイズは!」  「誰が言うか、この変態野郎!」  「それじゃあ服や下着が買えないじゃないかっ!!」  「見た目で判断してよ!」  うむ、見た目か・・・。確か、その俺のジャージはSだし、胸の膨らみ、腰の周りなどと見る。  「そ、そんなにジロジロ見ないで・・・」  彼女も恥ずかしいのか、赤面していた。  「あ、ごめん。よし、大体どんなのか分かったから待ってろよ。この家から一歩も出るなよ」  そう忠告して、俺は外へと向かった。    場所は変わって、龍神秀(デグラシア)の連絡支部。十翁(テンベイ)の十人目から六人目まで集う場所でもある。だが、そんな場所は賑やかだったのに、急に静かになってしまったのだ。亜鎧奈(アンディリア)が亡くなった今、喜ぶ人なんていない。鎌美舞(アディタガ)も、彼のことを思って仇を取ろうとしたのだが、裂踊鎖(チューブリオ)によってそれを制された。なので、部屋中を行ったり来たりしている。そんな中、裂踊鎖はある電話の前で待機していた。他、七人目や六人目の姿が見えないのだが、彼達は彼達で任務が遂行されているため、戻ってこれないのだ。  「落ち着いたらどうだ、鎌美舞よ」  「あん?落ち着いてられっかよ!十人揃って十翁なのに、一人でも欠けたらその分仕事が大変になるし、竜姫翁(メイルピア)にある三輝石(トライルア)の一つ、『秀神聖の輝石(レイアル・ユーリア)』の窃盗企画だって、失敗に終わるかもしれないんだぞ!?だからって、落ち着けるかっ」  「大丈夫だって。その企画は一時中断となって、一人目から五人目までが動いてくれるそうだし、私達は何もしなくてもいいのよ。出来るとなれば、竜姫翁から三輝石の一つ、『賢龍聖の輝石(ベリアル・ユーリア)』が取られるのを阻止するだけよ」  すると、電話が鳴り出す。その電話は勝手に喋りだす。その名は「魔伝器(マスドール)」。  『十翁の十人目が亡くなったことは誠に残念だが、それはお前達にも訪れるはず。命だけは落とさぬように行動をしてくれよ。さておき、次の任務だが、次動くのは鎌美舞だ。だが、今回は暴れても良い。竜姫翁はドンドン強くなっているから、その分倒してくれれば私の新たな計画が出来るかもしれん』  「よっしゃあっ!」  鎌美舞はガッツポーズをとる。  『ところで、超跳弾(スーパーボール)と岩凰塊(ラデュリエル)はどうした?』  七人目と六人目のことである。  「両者とも、現在任務遂行中と聞きます」  そう答えたのは、裂踊鎖だ。  『任務中か。その任務が終え次第、零様がお呼びと伝えておくれ』  「分かりました」  『では、健闘を祈る』  魔伝器は黙る。  「んじゃ、行ってくらぁ」  「気をつけて、鎌美舞」  「おう」  こうして、彼の姿は消えたのである。  俺は必死こいて服を探して買って来た。一着どころか、何着買っただろうか。これから俺の家で過ごす事になれば、それなりに準備は必要だ。なので、帰るときに纏め買いしておこう・・・。と思って買ったら、総合計五万近くしたのだ。俺にとって五万は一ヶ月ちょっとの生活資金だ。  家に帰ると、俺の部屋かつ和室は家を出る前よりも荒らされており、目を凝らして廊下を見れば何やら白色らしき水滴が二階へと繋がっている。  俺は服の入った袋を玄関に置き、和室をちょっと散策した。・・・よし、あれは取られてはいないようだ。だがしかし、二階にもあれが少しあったはず。それが見つかってしまったならば、俺の命に終止符が打たれる。それだけは避けるべく、二階へと駆け上る。  まず、あれがある部屋に俺は入る。そこには彼女がいなかった。そこは元俺の部屋である。勉強机が置いてあるから、ここにも何かが入っている。それは簡単には隠せないため、ちょっと荒っぽい行動をとらなきゃなんねぇな。俺はがっさり袋に詰め込み、蝶々結びにしてそれを持って降りる。途中、彼女とは会わなかった。それを和室の秘密の隠し場所に置いて、和室をちょっと片付ける。すると、彼女はアイスを食べながら降りてきた。  「何してるのよ、騒々しい」  「いや、何でもないけど二階で何してたの?」  「んっとね、私の部屋をどこか作れないかなって思って散策してたの」  「で、見つかったか?」  「うん。勉強机が置いてある部屋の反対側」  「別にいいよ。それよりもまず、整理整頓ぐらいはしろ。それとアイス食べながら歩くとポタポタ落ちるから、それは止めてくれ。ってか俺の服に染みが」  「別にいいじゃない。洗濯機で洗えば」  「落ちないから言ってるんだよ!」  「魔法を使えばちょちょいのちょいじゃない」  ・・・・・・。現時点においてその事をすっかり忘れていた。彼女がいることすら、俺に日常に取り入れようとしていた。もはや、日常じゃなくて超常じゃん。  「・・・それよりもまず、俺は魔法を使えるのか知りたいんだが」  「戦っているんだから分かるでしょ、そんぐらい。分からないと言うなら、一掃整理(オートクリーン)と唱えれば?」  俺は不思議に思い、手を動かすのをやめてそれを唱えた。  「一掃整理!」  ・・・・・・・・・・・・。  場は静まり返った。  「はぁ!?何で使えないのよ!」  静寂を殺し、俺を罵倒してきた。いっその事、静寂しきった空間で俺を殺して欲しかった。  「お、一掃整理!」  しかし、何度唱えても同じ事を繰り返すだけであった。どうやら、本当に彼女は堪忍袋の尾が切れるそうだ。  「おい待て。二度あることは三度あるってことじゃなくて、三度目の正直って事を信じろ!」  「・・・分かったわ。次、失敗したら本当に一発殴るからね」  右の拳を俺に見せたが、その拳はとてつもなく強烈な威圧感を感じた。  お、殴打されないように今度こそは!  俺は精神統一をする。何も考えないように、何も考えないように・・・・・・。すると、何やらある力が疼いて、そちらから出ようとしている。だが、これを全部出したらこの場はとてつもなく嫌な感じになりそうので、全体の1%だけを出して、呪文を唱えた。  「一掃整理!!」  目の前にあった服が自ら押入れにある引き出しに収納されていく。  そして、俺は安堵したのだがそれも束の間。  「集中しろ!制御が効かなくなるぞ」  彼女はそう叫んだので、今はこの部屋を綺麗にすることを集中した。すると、一分と経たないうちに綺麗になっていく。  「ふう・・・」  これだけでも俺はドッと疲れた。まるでフルマラソンをしたかのように。  そしたら、彼女は何かを思い出したのかこう俺に言ってきた。  「お前、名はなんと言う?」  今の今まで俺の名前が出ていないことに気づいていただろうか。俺もいつ言えばいいか迷っていた挙句に、今に達してしまっている。そして、彼女が聞いてきたのである。今後、同棲生活するには欠かせないのかと思うと・・・ん?  「その前にちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」  「何だ?」  「お前、自分の家は何処か分かるか?」  「それは当然、ここに決まっておる」  これはこれは。ハチャメチャな同棲生活になりそうだ。ひー、誰か助けてくれないのかね。  「俺の名は端山 彩人(はやま さいと)だ」  俺はそう言って右手を出す。彼女は俺がこれから何をするのか悟ったようだ。  「私の名は竜崎 姫(りゅうざき ひめ)。よろしくね」  こうして、一つ屋根の下で俺と姫(今後、そのように呼ぶし使う)は堅い握手を交わした。