〜第五話〜  夏休みが終わる一週間前。そろそろ暑さが去ってもいい頃、俺はある懸案事項を抱えてしまった。しかも、夏休みには学校には行くまいと思っていたのだが、ある一通の手紙によってその願いは消えてしまったのだ。簡単に言うと、挑戦状なのか果たし状なのかのどちらかに絞れるのだ。わざわざ、告白ならば学校のある教室に呼び出すなんて可笑しいだろう。噴水の近くにある公園とか、水族館の近くにある喫茶店とか、駅前のロータリーとか。  どうせ俺だって暇なんだ。夏休みの宿題は当の昔に終わらせており、何もすることが無いのだ。・・・ゲームは完璧に攻略したのだが、姫によってデータを消されてしまったのだ。ああ、またフラグを立てる所からしなければならないのか・・・。  姫と剣の稽古をした時から、俺の日常に「魔法」という習慣がついてしまった。物を浮遊させる術を使い、それを維持するのと移動させるのと。二週間ぐらいで三分間維持することが出来たので、姫からは「姫のバックアップ」と言う地位を貰ったのだ。  「所詮、私のバックアップなんだからって言っても特訓は続けるんだからね!」  とか言われて、次の特訓に入っているのだ。今回の特訓は、各系統の初級魔法を全て覚えるという、俺には無理難題かと思しき試練を貰ってしまったのだ。無理だと俺は一時間粘って口論してみたところ、「私もそれをやって通り越したんだから、やりなさい!」の一言で呆気なく、俺の反論は終了せざるを得なかった。夏休みの宿題も終わったのに、今度は魔法を勉強か。当分、俺に「休日」と言う日が来ないそうだ。  そんな中、手紙が届いて俺は学校の屋上に行くことにしたのだ。  箱庭龍聖(りゅうせい)学園。箱庭竜聖(りゅうせい)学園のもう一つの同じ学校で、俺が住む町には全域にわたってその噂が流れている。「龍」の方は通常人間が通う学校なんだが、「竜」は魔法を使う人が通う学校なのだそうだ。当然、俺は現在どっちなんだろうと不思議に思っている。夏休みはいる前までは「龍」の方だったけど、今や俺は魔法使いとなっている。理論的に考えれば、俺は「竜」の方なのだが、不安なのだこれが。  ま、そんな事は片隅に置いといて。俺は屋上へと向かった。向かう途中、四階の踊り場から屋上へ行く階段のロープには、「立ち入り禁止」というのが、姫と会う前よりも強調されている。  俺は前回と同じくそれを越えて屋上へと向かった。そしてドアを開ける。  その途端、誰かの呪文を唱える声が聞こえた。  「舞鎌(シルサ)」  突然目の前から俺に向かって鎌が振り下ろされたのだ。何も反応できやしない。だが、俺の七彩剣(ななさいけん)虹蒼剣(レイン・ブローウ)は反応して俺の目の前に現れ、それを受け止める。  「!?」  「ほお、お見事だ」  声がする方向を俺は見る。そこには見慣れた、阿島君人(あじまきみひと)がいた。  阿島君人は高校で知り合った友達であり、運良く最初に声をかけてくれたのがこいつだと言うことで友達になった人物なのだ。だが、この現況を見てみれば分かるだろう。いや、分かりたくもない。何故―――。  「おい、まさかお前・・・」  「そうさ。俺は龍神秀(デグラシア)の十翁(テンベイ)の九番目、鎌美舞(アディタガ)さ。竜姫翁(メイルピア)の幾人かは殺してお前の居場所を突き止めたわけだ。だが、俺はお前を簡単には殺さないさ。ちょっとした心理戦と行こうか」  阿島は鎌を持ちながら俺に問いかける。  「お前はどっちの言うことを聞く?」  「は?いきなり何を言い出す・・・」  んだ、とか言わせてくれ。最後まで言わせずに遮るのは止めておくれよ。  「お前は俺の言うことを聞くのか、灼竜姫(アクウォンミーナ)の言うことを聞くのかどちらだって聞いているんだ」  「そりゃあ、勿論姫だよ」  「それはお前の思い込みかもしれないな。ま、お前が決めることなんだけどな」  「おい、言いたいことがあるなら早く言ってくれよ!」  俺は刃先を彼に向ける。だが、それを持つ手は震えている。こいつに、こいつだけには刃先を向けたくはなかった。  「俺がお前を焦らしているとでも思うのか?まあいいだろう」  彼はちょっと移動して俺に話しかけた。  「お前は姫のことを信じているようだが、姫は嘘を吐いているかもしれないぞ」  俺はちょっとイラっと来た。  「はぁ?俺は姫と何週間一緒に過ごしてきたんだと思うんだよ!?」  「そんなこたぁ知ったこっちゃねぇ。魔法界の中でお前はどこにいるのかって聞きたいんだよ」  ・・・俺の居場所?そんなもの竜姫翁に決まって・・・・・・。  「・・・ふん。答えが出ねぇようだが、一体どうしたんだ?端山彩人」  俺は・・・俺はどっちなんだ?自分でも分からない・・・。  「どっちかなのか迷っているようだが、お前は中立しているわけだ。だから、竜姫翁と龍神秀の戦争はただ見ているだけでいいんだよ。中立者は傍観者と同様だ」  「・・・一つ聞く。傍観者という魔法使いはいるのか?」  「いや、この世には一人すらいねぇさ。でもな、お前が決めたならお前が最初に一人だ。お前はそれを嫌うか?」  「俺は孤独なんてこれっぽっちも嫌だ」  「さすれば、竜姫翁か龍神秀のどちらかを選ぶべきだ。さぁ、どちらを選ぶ・・・?」  すると、阿島の目つきが変わったが、魔法を使ったなんてこれっぽっちも知らない。  「俺は・・・・・・」  ・・・あれ?何かくらくらするぞ。誰かの魔法が俺の脳にかかっており、俺が言いたくも無いことを言いそうだ。くそっ。嵌められた。止まれ!俺の口!  「・・・俺は、阿島と友達だ」  「ああ、俺と端山は友達だぞ」  「・・・だから、俺は龍神秀を選ぶ・・・」  止めろ!止まれ!!そして誰か助けろ!心の中で叫んでも気づく奴なんていないけど、俺は何故か叫んでいた。  すると、阿島は俺に手を出している。  「さあ、俺と握手しようじゃないか」  握手をするな!何かの契約が掛けられるに違いない!とにもかくにも、俺の身体を勝手に使うんじゃない!!  「さあ、さあ、さあ!!」  すると、左手に剣を持ち替えており、右手で握手をしようとする。  しかし、握手は行われなかった。一発の銃声によって阿島の手に当たったのだ。それによって、精神集中していたのが途切れ、俺は我に戻る。  「ちっ。邪魔が入ったか」  そしてあの声が聞こえた。  「そいつから離れろおぉっ!!」  腰まで届く赤みの帯びた長髪。威勢のいい性格の女子。そして右手には銃を持つ竜崎姫が現れた。  「姫!!」  良かった。助かったよ・・・と、心の中で思っていたが彼女は次にこう言った。  「そいつから離れろっ!!巨爆轟打(ビャイアグラ)!!」  とてつもなくデカイ銃弾が阿島に向かって放たれる。彼に近づいていたので、俺は絶対当たるからそう言ったのだろう。言われなくても打てば避けるよ!!  俺は前回転しながらその場を避けるが、阿島は違った。  「縦一線(ウィドクラド)」  そして鎌を縦に振った。そしたら、そのデカイ銃弾は真っ二つになる。そして姫はこう叫んだ。  「サイトは竜姫翁の一員だ!既に本籍がある!サイトは龍神秀には渡すもんかっ!」  俺は安全策を考えて姫の隣に立つ。  「そ、そうなのか?ってか俺の魔籍(ませき)いつ入ったんだ?」  「?お前馬鹿か?一週間前ほどに契約書を渡して書いたではないか?」  一週間前・・・・・・。!  「あの紙が!?」  「そうだ。だから胸張ってこう言えばいい。「僕は竜姫翁の一員です」って」  ほっ。良かった。  「でも、会話は後にしておこう。鎌美舞がお怒りのようだ」  阿島を見てみると、確かに調子狂った獣のように怒っていた。  「てめぇ。俺の計画をぶち壊しやがって・・・。てめぇは真っ先にあの世へ送ってやらぁ!!八連鎌(エイグラリオ)!!」  俺と姫に向かって八つの鎌は襲い掛かってきた。  「気を緩めるなよ。これはもう戦争が始まっている。気を緩めたら死ぬと思え!!」  「分かった。援護よろしく」  俺は鎌に向かって突進をした。  「サイトっ!何をして・・・」  「今度は俺が遮る番だ。遠距離系の姫は俺の援護をしていればいいだけだ。こいつの相手は俺だ!」  そう言うと俺の目の色と剣の色を橙に変え、そしてLevel0の魔法を唱えた。  「雷流斬(サンデクター)!!」  俺は一つの鎌に向かって切りかかる。そして他の鎌が俺に降りかかろうと行動し始めていた。  「横一線斬(パドラデラク)」  縦に振ると見せかけて横に振った。運良く全部の鎌に当たって弾き飛ばした。  すると、阿島は八つの鎌を一つの鎌に直した。  「へぇ。この俺と対戦とはいい度胸じゃねぇか。いい勝負になることを願うぜ」  「俺もだな。今、非常にお前のことをムカついているからこの怒りごとお前にぶつけるぜ」  そして二人とも突進して鎌と七彩剣がぶつかり合う。  「てめぇ、俺の本気を舐めるんじゃねぇぞ!!」  阿島はさらに力攻めで来る。そして俺は押される。  「うぐっ・・・。ま、負けたまるかっ!!」  俺は押された分だけ取り戻そうとして、力を加える。  すると、両者のどちらかの剣か鎌かがミシっと言った。  「!?」  「!?」  両者は確認するべく、一旦離れる。そして、亀裂が入ったのは・・・・・・。  「お、俺の大事な鎌がっっっ!!!」  「ふん、勝利あったな、阿島よ。俺は殺したくないんだが、どうやら諦められなくなってしまった」  俺の背後で姫が「絶対殺せ」と脅しているような威圧感を俺に与えてくれる。  「まだ。まだ、俺はやれるっ!!速斬無残千(スヴェルダ・バルシェーダ)!」  目にも留まらぬ速さの鎌が幾十、いや幾千と見える。でも、所詮鎌は一つだ。俺も素早く反応しないと、一瞬にして殺される。なので、俺は避け続けている。  でも、そんな俺に終止符を打ったのだ彼だった。さらに魔法を追加した。  「八万鎌(エイヴォンリオ)!!」  幾千と出ている鎌からさらに増殖する。これじゃあ、流石に避けられやしない。  「死ぬなっ、サイト!!瞬発万打(エイヴォ・セルク)」  どうやら姫が一発ずつ狙っているようだ。おかげで、数が減ってきている。だがしかし、彼はまた魔法を追加した。  「反弾防壁(リターンシールド)!!」  すると、姫の銃弾と阿島の鎌が当たるが、銃弾が姫のほうへと戻っていく。  「くはっ。サイト・・・持ちこたえろ」  姫は右肩をやられ、打ち続けることが出来なくなったようだ。俺はそれを見ていた。それは俺にとって不利な行為。彼は今までの魔法を解除して最強ランクの魔法を唱えた。  「死ねぇ!!超巨大鎌天空斬(スーパーグランドヴェドロンディアルガ)!!!」  俺の真上にこの屋上すら広大する大きな鎌が現れた。そして俺に目掛けて振った。